●遺言書で不動産を相続させるときの書き方の基本
遺言書で不動産を確実に引き継ぐには、対象物件と取得者を公的情報に基づいて明確に特定することが重要です。
記載が曖昧だと、相続登記の手続きが滞ったり、相続人間で解釈の食い違いが生じたりする場合があるためです。
たとえば、自宅を長男に引き継がせたい場合は、「遺言者は、別紙財産目録1記載の土地及び同2記載の建物を、長男〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。」と記載できます。
この場合、不動産の所在・地番・家屋番号などを登記事項証明書で確認し、取得者の氏名・生年月日・続柄なども正確に記載する必要があります。
誰がどの不動産を取得するかが、明確に分かる遺言書を作成しましょう。
●遺言書を書く前に不動産の情報を確認する
正確な遺言書を作成するためには、所有する不動産を把握し、登記上の表示や権利関係を事前に確認することが重要です。
・所有する不動産を一覧にする
・登記事項証明書で不動産の表示を確認する
・共有不動産では自分の持分割合も確認する
まずは、不動産を調べる方法と、確認しておきたいポイントを順に見ていきましょう。
◯所有する不動産を一覧にする
遺言書を作成する際は、所有する不動産をできるだけ漏れなく一覧にまとめることが大切です。
自宅の土地や建物だけでなく、私道の共有持分、遠方の山林、未登記の建物などが含まれている場合もあるためです。
具体的には、固定資産税納税通知書や市区町村の名寄帳を確認するほか、2026年2月2日に施行された「所有不動産記録証明制度」も活用できます。
名寄帳では市区町村が管理する固定資産の情報を確認でき、所有不動産記録証明制度では全国の登記記録から指定した氏名・住所などの検索条件に合う所有不動産を一覧的に調べられますが、登記されていない建物や検索条件と一致しない物件などは把握できない場合があります。
証明書は全国の法務局で書面やオンラインによって請求できるため、それぞれの制度を活用して所有物件を確認しましょう。
◯登記事項証明書で不動産の表示を確認する
不動産の表示を正確に記載するためには、法務局で登記事項証明書を取得して内容を確認することが重要です。
普段使用している住所と登記上の地番や家屋番号は一致しないことがあるためです。
たとえば、「東京都〇〇区〇〇町一丁目〇番〇号」という住居表示だけでは、土地や建物を正確に特定できない場合があります。
法務省「不動産登記情報交換サービスについて」でも、土地・建物の地番や家屋番号は住居表示と一致しないことが多いと説明されています。登記事項証明書の表題部を確認し、所在・地番・家屋番号などの情報を正確に記載しましょう。
◯共有不動産では自分の持分割合も確認する
共有名義の不動産については、遺言者自身の持分割合を確認することが欠かせません。
共有不動産で遺言者が処分できるのは、原則として自分が所有する持分に限られるためです。
たとえば、登記事項証明書の権利部(甲区)に「持分2分の1」と記載されている場合、遺言者が所有するのは不動産全体の2分の1です。
ほかの共有者の持分まで相続させる内容にすると、その部分について遺言の効力が認められず、手続きに支障が生じる場合があります。
共有不動産を承継させる場合は、甲区の所有者と持分割合を確認した上で、承継する権利の範囲を明確にしましょう。
●遺言書に記載する土地・建物・マンション・共有持分の表示方法
不動産を遺言書に記載する際は、物件の種類や登記の内容に応じて、対象を明確に特定する必要があります。
・土地の書き方|所在・地番・地目・地積
・建物の書き方|所在・家屋番号・種類・構造・床面積
・マンション(区分所有建物)の書き方|専有部分・敷地権
・共有不動産の書き方|自分の持分を特定する
土地・建物・マンション・共有持分それぞれの特徴を踏まえ、具体的な表示方法を確認していきましょう。
◯土地の書き方|所在・地番・地目・地積
土地を遺言書に記載するときは、登記事項証明書を基に所在・地番・地目・地積を確認することが基本です。
これらの情報を正確に記載することで、対象となる土地を特定しやすくなるためです。
たとえば、土地の表示は次のように記載できます。
【土地の表示例】
所在:東京都〇〇区〇〇町一丁目
地番:100番1
地目:宅地
地積:150.00平方メートル
ただし、日常的に使用する住所と登記上の地番は異なることがあるため、住居表示だけで土地を指定することは避けた方がよいでしょう。
登記事項証明書に記載された情報を参考に、対象の土地が明確に分かるよう記載しましょう。
◯建物の書き方|所在・家屋番号・種類・構造・床面積
建物を遺言書に記載する際は、所在・家屋番号・種類・構造・床面積を確認することが重要です。
建物の住所や通称だけでは、登記上の対象物件を正確に特定できない場合があるためです。
たとえば、建物の表示は次のように記載できます。
【建物の表示例】
所在:東京都〇〇区〇〇町一丁目100番地1
家屋番号:100番1
種類:居宅
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階50.00平方メートル、2階45.00平方メートル
また、附属建物や未登記の増築部分がある場合は、登記記録と実際の建物の状況を照合する必要があります。
相続登記を円滑に進めるためにも、登記事項証明書を確認し、建物を特定できる情報を正確に記載しましょう。
◯マンション(区分所有建物)の書き方|専有部分・敷地権
分譲マンションを遺言書に記載する場合は、専有部分と敷地利用権の内容を確認することが重要です。
専有部分とは各住戸など独立して所有する部分を指し、敷地利用権とは建物の敷地を利用するための権利で、そのうち登記上、専有部分と一体的に扱われるものが敷地権です。
一般的な敷地権付き区分所有建物では、登記事項証明書の「一棟の建物の表示」「専有部分の建物の表示」「敷地権の表示」などを確認し、次のように対象物件を整理します。
【マンションの表示例】
1.一棟の建物の表示
所在:東京都〇〇区〇〇町一丁目100番地1
建物の名称:〇〇マンション
2.専有部分の建物の表示
家屋番号:〇〇町一丁目100番1の301
建物の名称:301
種類:居宅
構造:鉄筋コンクリート造1階建
床面積:60.00平方メートル
3.敷地権の表示
敷地権の目的である土地の表示:登記事項証明書に記載された所在・地番等
敷地権の種類:所有権
敷地権の割合:10000分の125
これは敷地権付きマンションを想定した表示例であり、敷地権の登記がない物件では土地の共有持分などが別に登記されていることもあります。
部屋番号だけで判断せず、実際の登記事項証明書に応じて専有部分と敷地利用権を明確に特定しましょう。
◯共有不動産の書き方|自分の持分を特定する
共有不動産を相続させる場合は、対象物件に加えて、遺言者が所有する持分を明確に記載しましょう。
遺言者自身の権利の範囲を表示することで、不動産全体ではなく共有持分が承継対象であることを示せるためです。
たとえば、登記事項証明書で持分が2分の1と確認できる場合は、土地や建物の表示とともに「遺言者の有する持分2分の1の全部」と記載できます。
また、不動産全体の表示と遺言者の持分を分けて整理すると、受け取る人にも承継する権利の範囲が伝わりやすくなります。
共有名義の不動産を遺言書に記載する際は、登記上の持分割合を確認し、対象となる権利を正確に表示しましょう。
●不動産を取得する人に応じて「相続させる」「遺贈する」を使い分ける
不動産を取得する人が法定相続人か、それ以外の人かによって、遺言書で用いる文言を適切に使い分けることが大切です。
・相続人に不動産を残す場合の「相続させる」と「遺贈する」の違い
・相続人以外に不動産を残す場合は「遺贈する」を使う
ここでは「相続させる」と「遺贈する」の違いや、登記手続きに関する注意点を解説します。
◯相続人に不動産を残す場合の「相続させる」と「遺贈する」の違い
法定相続人に不動産を取得させる場合は、一般的に「相続させる」という文言を用います。
「相続させる」旨の遺言は、通常、遺産分割方法の指定として扱われ、特定の財産を相続人に承継させる意思を明確にできるためです。
一方、「遺贈する」という文言でも相続人に不動産を渡すことは可能で、2023年4月1日からは相続人への遺贈による所有権移転登記も受遺者が単独で申請できるようになりました。
ただし、両者は法的な性質や登記原因などが異なるため、単独で登記できるという共通点だけで同じものと判断することはできません。
相続人へ特定の不動産を引き継ぐ場合は、原則として「相続させる」を用い、特別な事情がある場合は適切な文言を検討しましょう。
◯相続人以外に不動産を残す場合は「遺贈する」を使う
法定相続人以外の人に不動産を渡す場合は、原則として「遺贈する」という文言を使用します。
法律上の相続権を持たない人には、通常の相続によって不動産を取得させることができないためです。
たとえば、長男の妻や内縁のパートナーに自宅を渡したい場合は、「長男の妻〇〇に遺贈する」と記載します。
ただし、孫は子が先に死亡している場合などに代襲相続人となることがあるため、相続人に該当するかどうかを事前に確認する必要があります。
財産を渡す相手の法律上の立場を確認し、適切な文言で遺言者の意思を明確にしましょう。
●ケース別|不動産を相続させる遺言書の文例
不動産を相続させる遺言書は、物件の種類や取得する人に応じて条項を作成することが重要です。
・自宅の土地・建物を1人に相続させる場合
・複数の不動産をそれぞれ別の人に相続させる場合
・共有持分を相続させる場合
・相続人以外の人に不動産を遺贈する場合
自宅の土地・建物、複数の不動産、共有持分、第三者への遺贈について、代表的な文例を紹介します。
◯自宅の土地・建物を1人に相続させる場合
自宅の土地と建物を特定の相続人1人に引き継がせる場合は、土地と建物の両方を同じ人に相続させる旨を記載します。
土地と建物は法律上別の不動産として扱われるため、それぞれを特定する必要があるためです。
たとえば、長男に自宅を相続させる場合は、次のように遺言書本文と別紙財産目録を作成できます。
【遺言書本文の文例】
遺言書
第1条 遺言者は、別紙財産目録1記載の土地及び同2記載の建物を、長男〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
令和〇年〇月〇日
遺言者 〇〇〇〇 印
【別紙財産目録の文例】
別紙財産目録
1.土地
所在:東京都〇〇区〇〇町一丁目
地番:100番1
地目:宅地
地積:150.00平方メートル
2.建物
所在:東京都〇〇区〇〇町一丁目100番地1
家屋番号:100番1
種類:居宅
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階50.00平方メートル、2階45.00平方メートル
上記は本文と財産目録の対応関係を示す記載例であり、自筆証書遺言では本文・日付・氏名を自書して押印するほか、自書によらない財産目録の各用紙にも法律上必要な署名押印をおこなう必要があります。
土地と建物の表示は実際の登記事項証明書に合わせ、取得者と対象物件の関係が明確になるよう作成しましょう。
◯複数の不動産をそれぞれ別の人に相続させる場合
複数の不動産を別々の相続人に相続させる場合は、不動産ごとに条項を分けて記載すると分かりやすくなります。
取得する物件と相続人の対応関係を明確にすることで、遺言内容の解釈をめぐる争いを防ぎやすくなるためです。
たとえば、自宅を長男に、賃貸アパートを二男に相続させる場合は、次のように記載できます。
・第1条 遺言者は、別紙財産目録1記載の不動産を、長男〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
・第2条 遺言者は、別紙財産目録2記載の不動産を、二男〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
また、財産目録では自宅、賃貸アパート、駐車場などを区別し、それぞれの登記情報を確認しておくことが大切です。
相続人ごとの取得財産を整理し、どの不動産を誰が相続するのか明確にしましょう。
◯共有持分を相続させる場合
共有不動産の持分を相続させる場合は、遺言者自身が所有する持分を明確に指定することが重要です。
不動産全体を相続させるのではなく、遺言者が持っている権利だけを引き継ぐ必要があるためです。
たとえば、持分2分の1を長女に相続させる場合は、次のように記載できます。
第1条 遺言者は、別紙財産目録1記載の不動産について、遺言者の有する持分2分の1の全部を、長女〇〇(平成〇年〇月〇日生)に相続させる。
この場合、財産目録には対象不動産を特定する情報を記載し、本文の持分割合と登記上の権利が一致しているか確認することが大切です。
共有不動産の相続では、所有者と持分割合を正確に把握した上で条項を作成しましょう。
◯相続人以外の人に不動産を遺贈する場合
法定相続人以外の人に不動産を渡す場合は、「遺贈する」という文言を用いて取得者と物件を明確に指定します。
相続人以外への遺贈では、原則として所有権移転登記の共同申請が必要となるため、手続きについても考慮しておくことが大切です。
たとえば、受遺者と遺言執行者を指定する場合は、次のように記載できます。
・第1条 遺言者は、別紙財産目録1記載の不動産を、〇〇太郎(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。
・第2条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、〇〇花子を指定する。
この文例では、〇〇太郎が不動産を取得する受遺者、〇〇花子が遺言の内容を実現するための手続きを担う遺言執行者です。
遺言執行者の指定は必須ではありませんが、指定しておくと相続人の協力を得るための負担を減らせる場合があるため、相続人以外への遺贈ではその指定も検討しましょう。
●自筆証書遺言と公正証書遺言を比較する
遺言書の主な作成方式である自筆証書遺言と公正証書遺言には、費用や作成方法、保管方法などの違いがあります。
・自筆証書遺言で作成するときの書き方と方式上の注意点
・登記事項証明書の写しを財産目録として添付する場合の注意点
・公正証書遺言を検討するときに確認すること
・自分の状況に合った遺言方式を選ぶ
不動産を円滑に承継させるため、それぞれの特徴と注意点を比較していきましょう。
◯自筆証書遺言で作成するときの書き方と方式上の注意点
自筆証書遺言を作成する場合は、民法第968条に定められた方式要件を守ることが重要です。
法律上の要件を満たしていない場合、遺言の全部または一部が無効となるおそれがあるためです。
具体的には、遺言書の全文(財産目録を除く)、日付、氏名を遺言者が自書し、押印する必要があり、「〇年〇月吉日」のような日付を特定できない表記は避けなければなりません。
また、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用しない場合、相続開始後は原則として家庭裁判所での検認が必要です。
自筆証書遺言を作成する際は、法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります」を参考に、方式要件を確認しましょう。
◯登記事項証明書の写しを財産目録として添付する場合の注意点
自筆証書遺言では、登記事項証明書の写しなどを財産目録として添付することが認められています。
2019年1月13日施行の法改正により、財産目録については自書以外の方法で作成できるようになったためです。
たとえば、登記事項証明書の写しを添付すれば、土地や建物の詳細な情報をすべて手書きする負担を減らせます。
ただし、自書によらない財産目録には各用紙に遺言者の署名と押印が必要で、両面に自書によらない記載がある場合は両面に署名押印しなければなりません。
財産目録の不備が遺言の効力に影響するおそれがあるため、添付書類の方式要件を事前に確認しておきましょう。
◯公正証書遺言を検討するときに確認すること
公正証書遺言を作成する場合は、公証役場で必要になる資料と作成の手順を事前に確認することが大切です。
公証人が関与し、原則として証人2名以上の立会いのもとで作成されるため、自筆証書遺言に比べて方式不備のリスクを抑えやすいという特徴があります。
具体的には、戸籍謄本、本人確認資料、不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書などを、事案に応じて準備します。
また、公正証書遺言は家庭裁判所の検認が不要ですが、作成には公証人手数料がかかり、事前の打ち合わせや資料確認も必要です。
必要書類と作成の流れについては、事前に把握しておきましょう。
◯自分の状況に合った遺言方式を選ぶ
遺言方式は、保有する財産や家族関係、作成費用などを踏まえ、自分の状況に合った方法を選ぶことが重要です。
自筆証書遺言と公正証書遺言では、作成方法や費用、証人の要否、保管方法、検認の必要性、方式不備のリスクなどが異なるためです。
たとえば、自筆証書遺言は証人なしで作成でき、自己保管のほか手数料を支払って法務局の保管制度も利用できますが、自分で方式要件を確認する必要があり、保管制度を利用しない場合は原則として家庭裁判所の検認が必要です。
一方、公正証書遺言は原則として2名以上の証人と公証人が関与するため手数料がかかるものの、原本は公証役場で保管され、検認が不要で方式不備のリスクも抑えやすいという特徴があります。
そのため、費用を抑えて比較的単純な遺言を作成したい場合は自筆証書遺言、複数の不動産を所有している場合や親族間の対立が懸念される場合は公正証書遺言を検討してみましょう。
そして、法務局の保管制度も遺言内容の有効性まで保証するものではないことを踏まえ、必要に応じて専門家に確認してもらいましょう。
●不動産の遺言書を作成するときの注意点
不動産を対象とする遺言書では、記載方法だけでなく、遺留分や将来の財産状況の変化にも注意する必要があります。
・特定の人に多く取得させる場合は遺留分にも注意する
・遺言書の作成後に不動産を売却・買い替えたら内容を見直す
ここからは、作成後のトラブルを防ぐために押さえておきたい2つのポイントを説明します。
◯特定の人に多く取得させる場合は遺留分にも注意する
不動産などの高額な財産を特定の相続人に集中して取得させる場合は、ほかの相続人の遺留分に配慮することが重要です。
配偶者や子などの一定の相続人には法律上保障された遺留分があり、侵害された場合には金銭の支払いを求められることがあるためです。
たとえば、長男に自宅をすべて相続させた場合、ほかの遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受け、長男が金銭の支払いに対応しなければならないケースもあります。
対策としては、預貯金などの配分を調整したり、生命保険の活用を検討したりする方法がありますが、遺言書の付言事項だけで遺留分侵害額請求を防げるわけではありません。
相続人間の利益を考慮した財産配分を検討しましょう。
◯遺言書の作成後に不動産を売却・買い替えたら内容を見直す
遺言書の作成後に不動産を売却したり買い替えたりした場合は、遺言書の内容を確認して必要に応じて変更しましょう。
民法第1023条第2項では、遺言者が遺言内容と抵触する生前処分などをした場合、その抵触する部分の遺言を撤回したものとみなすことが定められているためです。
たとえば、自宅を長男に相続させる遺言を作成したあとにその自宅を売却し、新しいマンションを購入しても、元の自宅を指定した条項によって新居が当然に長男へ引き継がれるわけではありません。
ただし、遺言書に残余財産の取得者を指定する条項があれば、新しく取得した不動産がその対象となる場合もあります。
不動産の売却や買い替えが生じた際は、遺言書全体を確認し、現在の財産状況に合う内容へ見直しましょう。
●一般的な文例だけでは判断しにくいケース
不動産の権利関係が複雑な場合や、特別な条件を付けたい場合は、一般的な遺言書の文例だけでは対応が難しいことがあります。
・不動産の権利関係が複雑な場合
・相続人以外への遺贈で確認事項が多い場合
・遺留分への配慮や相続人間の調整が必要な場合
・複数の希望や条件を遺言書に盛り込みたい場合
ここでは、個別の事情に応じた検討が必要になる4つのケースを紹介します。
◯不動産の権利関係が複雑な場合
不動産の権利関係が複雑な場合は、登記内容や利用状況を詳しく調べてから遺言書を作成することが重要です。
借地権や私道の共有持分、未登記建物などが関係すると、一般的な文例だけでは承継する権利を十分に特定できないことがあるためです。
たとえば、自宅の敷地と建物だけを指定し、私道の共有持分を記載しなかった場合、その持分の帰属について別途検討が必要になるケースがあります。
また、農地については相続による取得と相続人以外への特定遺贈では農地法上の取扱いが異なる場合があるため、農業委員会への確認も必要です。
複雑な権利関係がある不動産については、司法書士や弁護士などの専門家に相談し、必要な条項を整理しましょう。
◯相続人以外への遺贈で確認事項が多い場合
相続人以外の人に不動産を遺贈する場合は、登記手続きに加えて税金の負担も確認しておく必要があります。
取得する人の立場や遺贈の方法によって、相続税や不動産取得税の取扱いが異なるためです。
たとえば、被相続人の配偶者や一親等の血族などに該当しない人が財産を取得した場合、一定の条件で相続税額の2割加算の対象になります。
また、不動産取得税については、遺産のうち特定の財産を指定して渡す「特定遺贈」のうち相続人以外へのものは課税対象となる一方、遺産の全部または一定割合を渡す「包括遺贈」による取得は非課税とされています。
受遺者の税負担と登記手続きについては、事前に確認しておきましょう。
◯遺留分への配慮や相続人間の調整が必要な場合
特定の相続人に不動産を集中して相続させる場合は、遺留分への配慮に加えて、相続人間の利益を調整することが重要です。
不動産は分割しにくい財産であり、取得する人としない人との間で不公平感が生じる場合があるためです。
たとえば、長男に事業用不動産を相続させる一方で、ほかの相続人には預貯金や有価証券を配分する方法が考えられます。
また、遺言書に付言事項を設けて財産配分の理由や家族への思いを記載することで、遺言者の考えを伝えやすくなりますが、法的な遺留分を制限する効力はありません。
財産の評価額や相続人の状況を把握し、それぞれの取得財産と遺言者の意向を整理しながら、金銭面と感情面の両方に配慮した遺言内容を検討しましょう。
◯複数の希望や条件を遺言書に盛り込みたい場合
不動産の承継に特別な希望や条件を付けたい場合は、その内容に合う法的な仕組みを選ぶことが重要です。
義務の内容や条件が曖昧なままだと、遺言の解釈や実行をめぐって争いが生じる場合があるためです。
たとえば、「妻の介護を行う義務を負わせて不動産を遺贈する」という負担付遺贈や、「不動産を売却して代金を複数人に分配する」という清算型遺言などが考えられます。
また、負担付遺贈では受遺者が負う義務の範囲を、清算型遺言では売却方法や遺言執行者の権限を具体的に定めることが重要です。
特殊な希望を遺言書に盛り込む場合は、実現可能性や法律上の効果を専門家と確認しながら条項を作成しましょう。
●不動産を含む遺言書の作成に迷ったら弁護士へ相談する選択肢もある
不動産を含む遺言書の作成に不安がある場合は、弁護士などの専門家への相談を検討するとよいでしょう。
不動産は権利関係や評価額が複雑になりやすく、記載内容によって相続人間の利害関係に影響することがあるためです。
弁護士には家族関係や遺留分を踏まえた条項の検討を、司法書士には登記情報の確認や相続登記の手続きに関する相談を、税理士には相続税などの税務上の確認を依頼できます。
相談する際は、登記事項証明書や固定資産税納税通知書、家族関係が分かる資料などを整理しておくと、不動産や相続人の状況を伝えやすくなります。
専門家が関与しても将来の紛争や遺言の無効リスクを完全に排除できるわけではありませんが、法律上の問題点を事前に把握しやすくなるため、不動産の権利関係が複雑な場合や相続人間で対立が懸念される場合は、早めに相談しましょう。
●まとめ
不動産を遺言書によって円滑に承継させるためには、対象物件と取得者を明確に特定し、法律上の要件を満たすことが重要です。
登記情報の確認不足や不適切な文言、遺留分への配慮不足などがあると、相続開始後の手続きや親族間の話し合いに支障が生じる場合もあります。
そして、遺言書をめぐるトラブルの多くは、少しの知識と事前の準備、そして家族への配慮があれば、防ぎやすくなります。
そのため、今もしトラブルになりにくい遺言書を作成したいとお考えの方は、法律のプロである弁護士へ相談しながら作成をするのがおすすめです。
遺言書の種類や記載方法、手続き方法や問題になりやすいポイントなどを含め、ぜひ弁護士に相談しながら進めてみてください。
藤沢市、鎌倉市、茅ケ崎市近郊で、遺産分割に関してお困りでしたら弁護士松永大希(藤沢かわせみ法律事務所)までご連絡下さい。電話 0466−52−5637|受付時間は10:00から18:00メール info@kawasemi-law.comよろしくお願いします!