●遺言書は無視できる?
遺言書は単に無視できるものではなく、原則として被相続人の意思を反映した法的効力のある文書です。ただし、一定の条件を満たせば相続人間の合意によって異なる遺産分割をおこなえる場合もあります。
・遺言書に従わないだけで刑事罰を受けるわけではない
・遺言書は原則として法的効力があり優先される
まずは遺言書に従わなかった場合の法的な扱いと、注意すべきポイントを確認しましょう。
◯遺言書に従わないだけで刑事罰を受けるわけではない
結論として、遺言書の内容に従わないこと自体に刑事罰が科されるわけではありません。
遺言に基づく財産承継や遺産分割は、基本的に相続人間の民事上の問題として扱われるためです。
そのため、遺言内容に不満を持ち、相続人同士で話し合いを拒否しただけで逮捕されたり、犯罪として処罰されたりすることはありません。
ただし、遺言を無視して勝手に財産を処分した場合や、他人の権利を侵害した場合には、民事上の責任を問われる場合があります。
遺言書に従わない行為そのものは犯罪ではありませんが、相続トラブルにつながるケースがある点には注意が必要です。
◯遺言書は原則として法的効力があり優先される
有効な遺言書が存在する場合、原則として遺言の内容が法定相続分より優先されます。
民法では、被相続人が自分の財産をどのように承継させるかを決める自由が認められているためです。
そのため、遺言書で財産の取得者や割合が指定されている場合、相続人は基本的にその内容に従って手続きを進める必要があります。
ただし、遺言の内容が法律上無効である場合や、遺留分を侵害している場合などには、別途法的な対応が可能です。
内容に納得できない場合でも、自己判断で無視するのではなく、適切な手続きを検討することが重要です。
●遺言書と異なる遺産分割ができるケース
遺言書が存在していても、一定の条件を満たせば異なる内容で遺産を分けることが可能です。とくに、関係者全員の合意がある場合や、法律上の制限がない場合には柔軟な対応が認められることがあります。
・相続人・受遺者全員の同意がある場合
・遺言による遺産分割禁止の指定がない場合
・遺言執行者がいる場合は同意が必要
具体的な条件を確認していきましょう。
◯相続人・受遺者全員の同意がある場合
遺言によって財産を取得する予定だった人を含め、全員が変更内容に納得していることが重要です。
たとえば、遺言書で長男に多くの財産を相続させる内容が指定されていても、関係者全員が合意すれば別の割合で分けることがあります。
ただし、一部の相続人や受遺者が反対している場合には、自由に内容を変更することはできません。
遺言と異なる分割を検討する場合は、対象となる全員の意思確認をおこなう必要があります。
◯遺言による遺産分割禁止の指定がない場合
遺言書と異なる分割を検討する際は、遺言による遺産分割禁止の指定がないか確認する必要があります。
民法908条では、遺言者が一定期間、遺産分割を禁止できることが定められています。
遺産分割禁止の指定がある場合、その期間中は原則として指定に従う必要があります。
たとえば、「相続開始から3年間は遺産分割を禁止する」と遺言で指定されている場合、その期間中に自由な分割をおこなうことはできません。
遺言内容を変更したい場合は、まず遺言書全体を確認し、制限事項がないか確認することが大切です。
◯遺言執行者がいる場合は同意が必要
遺言執行者がいる場合、遺言内容や職務範囲を確認したうえで手続きを進める必要があります。
遺言執行者は、遺言内容を実現するために必要な手続きをおこなう権限を持つ者です。
民法1013条では、相続人が遺言執行を妨げる行為をすることが制限されています。
そのため、遺言執行者が関与する財産について、相続人だけで処分や手続きを進めると問題になる場合があります。
遺言執行者が指定されている場合は、事前に権限や手続きへの影響を確認してから対応することが重要です。
●遺言書を無視して変更することが難しいケース
遺言書と異なる内容で遺産を分けるには、関係者全員の合意など一定の条件を満たす必要があります。
・相続人・受遺者の一人でも反対している場合
・遺言書を勝手に変更・処分した場合
ここでは、遺言書通りに手続きを進める必要がある代表的なケースを解説します。
◯相続人・受遺者の一人でも反対している場合
相続人や受遺者の一人でも反対している場合、遺言書と異なる遺産分割をおこなうことは原則として困難です。
遺言内容を変更するには、遺言によって利益を受ける人を含めた関係者全員の合意が必要になるためです。
たとえば、複数の相続人が「遺言とは異なる割合で分けたい」と考えていても、一人が遺言通りの取得を希望すれば、その意向を無視して変更することはできません。
遺産分割協議は多数決で決めるものではなく、関係者全員の合意によって成立するものです。
そのため、異なる分割を希望する場合は、まず全員の意向を確認することが重要です。
◯遺言書を勝手に変更・処分した場合
遺言書を勝手に書き換えたり破棄したりしても、遺言の効力を変更することはできません。
遺言は、法律で定められた方式に従って作成された本人の意思表示であり、第三者が手を加えても有効な変更とは認められないためです。
また、不都合な遺言書を隠したり破棄したりした場合、民法上の相続欠格に該当するケースがあります。
さらに、行為の内容によっては刑事責任を問われる場合もあるため、遺言書を自分の判断で処分することは避けるべきです。
遺言内容に不満がある場合は、無断で変更するのではなく、法的な手続きを利用して対応する必要があります。
●遺言書と異なる対応をする際の注意点
遺言書に不満がある場合でも、法律で認められた方法によって対応することが重要です。
不適切な対応をすると、相続上の権利を失ったり、法的責任を負ったりするケースがあります。
・遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿は認められない
・相続欠格により相続権を失う可能性がある
・遺言書の検認を怠ると過料の対象になる場合がある
とくに注意すべきポイントを解説します。
◯遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿は認められない
遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿は、相続上重大な問題となる行為です。
民法891条では、一定の不正行為を行った相続人について、相続欠格となることが定められています。
たとえば、自分に有利になるよう遺言を書き換えたり、存在する遺言書を隠したりした場合、相続資格を失う場合があります。
また、具体的な行為内容によっては刑事上の責任が問題になるケースもあります。
遺言書の内容に納得できない場合でも、不正な方法で解決しようとせず、正当な手続きを利用することが大切です。
◯相続欠格により相続権を失う可能性がある
遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿などをおこなった相続人は、相続欠格により相続資格を失うケースがあります。
民法891条では、被相続人の遺言に関する不正行為をおこなった者を相続欠格事由の一つとして定めています。
相続欠格に該当すると、相続人として財産を取得する権利を失います。
ただし、相続欠格の対象や効果は法律上の相続人としての地位に関するものであり、表現は正確に理解する必要があります。
遺産を多く取得する目的で不正行為をおこなうと、結果的に大きな不利益につながるため注意が必要です。
◯遺言書の検認を怠ると過料の対象になる場合がある
自筆証書遺言の一部は、家庭裁判所で検認を受ける必要があります。
公正証書遺言や法務局で保管された自筆証書遺言については検認が不要ですが、それ以外の自筆証書遺言を発見した場合は検認手続きが必要です。
民法1004条では、検認を受ける義務が定められており、違反した場合には民法1005条により過料の対象となる場合があります。
検認は遺言書の状態を確認し、偽造や変造を防止するための手続きです。
自筆証書遺言を見つけた場合は、勝手に開封や処分をせず、適切な手続きをおこなうことが重要です。
●遺言書の内容に納得できない場合の対処法
遺言書の内容に不満がある場合でも、法律上認められた手続きを利用することで解決を図れます。
・遺言書の無効を主張する
・遺留分侵害額請求をおこなう
・弁護士に相談して適切な対応を検討する
ここでは代表的な対処法を紹介します。
◯遺言書の無効を主張する
遺言に形式上の不備や遺言能力の問題がある場合、無効を主張できるケースがあります。
遺言は法律で定められた方式に従って作成する必要があり、要件を満たさない場合は効力が認められないことがあります。
たとえば、作成時に判断能力が失われていた場合や、法律上必要な形式を欠いている場合には、無効を争うことが可能です。
ただし、無効を認めてもらうには客観的な証拠に基づいた主張が必要になります。
疑問がある場合は、医療記録や作成状況などの資料を確認しながら慎重に対応することが重要です。
◯遺留分侵害額請求をおこなう
一定の法定相続人は、遺留分を侵害された場合に金銭の支払いを請求できます。
民法では、兄弟姉妹以外の法定相続人に対して、最低限保障される取り分である遺留分を認めています。
そのため、遺言によって特定の人へ財産の大部分が渡された場合でも、条件を満たせば金銭請求が可能です。
たとえば、配偶者や子が相続財産をほとんど取得できない内容の遺言であっても、遺留分侵害額請求によって保護される場合があります。
遺言内容が不公平だと感じた場合は、遺留分の有無や請求期限を確認することが重要です。
◯弁護士に相談して適切な対応を検討する
相続トラブルが複雑な場合は、弁護士へ相談して法的な対応を検討することが有効です。
遺言の有効性判断や相続人間の交渉には、専門的な法律知識が必要になるためです。
とくに、遺言無効や遺留分をめぐる争いでは、証拠収集や法的な主張が重要になります。
弁護士に相談することで、自分の状況に合った解決方法を検討できます。
感情的な対立を避けながら適切に手続きを進めるためにも、早めに専門家へ相談するのがおすすめです。
●まとめ
遺言書は原則として法的効力を持つため、自己判断で無視することはできません。
ただし、関係者全員の合意がある場合や、法律上の問題がある場合には、遺言内容とは異なる対応が可能なケースもあります。
一方で、遺言書の偽造や破棄、隠匿などの不正行為をおこなうと、相続資格を失うケースがあります。
不満がある場合は、遺言無効の主張や遺留分侵害額請求など、法律で認められた方法によって解決を図ることが重要です。
遺言書の扱いに迷った場合は、内容や相続人の状況を確認したうえで、必要に応じて法律のプロである弁護士へ相談するのがおすすめです。
遺言書の種類や記載内容、手続き方法や問題になりやすいポイントなどを含め、ぜひ弁護士に相談しながら進めてみてください。
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