遺言書で全財産を1人に相続は可能?無効になる例と対処法を解説
全財産を妻一人に渡すことを、遺言に残したいと考えている人もいるでしょう。しかし相続分に偏りがみられると、相続人の間でトラブルが生じるリスクも高まります。
この記事では、遺言書で一人に全財産を相続させる方法が可能かを紹介します。併せて遺言書が無効になる方法についてもまとめましょう。相続トラブルで悩まされている人は、ぜひ記事を参考にしてください。
●遺言書で全財産を一人に相続させることは可能か?
法律では、遺言書で全財産を一人に相続させることを禁じていません。被相続人の意思を最優先に尊重するため、遺言の内容についてはある程度自由に決められます。
しかし、実際には一人の相続人が財産を引き継ぐのは難しいでしょう。その理由は、遺言で財産を分配する場合、原則として相続人は遺留分を請求できるためです。遺留分の詳しい内容については後述します。
●遺言書が無効になる例
正しい方法で遺言を残したとしても、不備や不正により無効になる場合もあります。自分の意思を反映させるためには、遺言のルールをしっかりと守らないといけません。遺言書が無効になる例について、いくつか紹介します。
◯形式的な不備がある場合
遺言書が無効になる例として挙げられるのが、形式的な不備がみられた場合です。
・署名捺印がなされていない(自筆証書遺言)
・日付が記載されていない(自筆証書遺言)
・全文を自署で記載していない(自筆証書遺言)
・不適格な人物を証人に選んだ(公正証書遺言)
・口授を欠いた状態で作成した(公正証書遺言)
とくに全文を自署で記入しなければならない自筆証書遺言は、不備が発生するリスクも高まります。正確に遺言書を作成するには、できる限り公正証書遺言を選んだほうが賢明です。
◯他人が偽造した場合
他人が偽造した遺言書も、無効なものと扱われます。偽造とは、権限のない人が遺言書を一から作成することです。なお被相続人が作成した遺言書について、誰かが勝手に内容を変える行為は変造と呼びます。
偽造を防ぐ方法として挙げられるのが、公正証書遺言です。こちらは公証役場が原本を管理するため、公証人によって内容が正しいかを判断してもらえます。自筆証書遺言においても、法務局に保管してもらうことで偽造を防ぎやすくなります。
◯認知症など遺言能力がない人が作成した場合
遺言能力がない人の作成した遺言書も、無効事由に該当する要素の一つです。遺言能力では、遺言した人が内容を理解しているかどうかがポイントとなります。
そのため事理を弁識する能力がない成年被後見人は、一般的に遺言できません。しかし成年被後見人でも、事理を弁識能力が一時的に回復すれば、医師2人以上の立ち会いのもとで認められます。
ほかに遺言能力を持たないとされているのは、15歳未満の者です。成年被後見人よりも認知症の程度が軽い被保佐人や被補助人は、遺言における制限はありません。
◯内容が公序良俗に違反している場合
内容が公序良俗に反していると、遺言は原則として無効となります。公序良俗とは「公の秩序、善良の風俗」を略した言葉であり、社会的妥当性を重んじる考え方です。
つまり反社会的な内容が示されている遺言書は、一般的に効力を有しません。たとえば不倫相手に対して、多額の財産を贈与するといった遺言は無効になる可能性があります。
公序良俗に違反しているかどうかは、裁判所の判断や時代背景によっても異なります。法律的にグレーとされる遺言は、できる限り避けたほうが望ましいでしょう。
◯詐欺・強迫により遺言が作成された場合
詐欺や強迫により、遺言が作成された場合も無効事由の一つです。相続人が被相続人となる者を騙したり、脅したりして作らせた遺言書は効力を発揮しません。
被相続人が生きている間は、いつでも遺言を撤回できます。撤回するときも遺言書が必要であるものの、自筆証書遺言を選んだ人でも撤回するときは公正証書遺言に変えることも可能です。
自身が亡くなってしまうと、相続人側は詐欺や強迫の事実を証明するのが難しくなります。このような被害を受けて困っているのであれば、自身が生きている間に対処することが大切です。
●遺言書の基本的な書き方
遺言は書面に残す必要があり、口頭で誰かに伝えただけでは効力を発揮しません。種類別のルールに基づき、正式な形で遺言書を作成しなければなりません。遺言の形式に加え、記載事項や文例についても紹介します。
◯遺言書の形式
遺言書の形式は、大きく分けて自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つがあります。
自筆証書遺言
・全文を自署で記入
・日付、署名捺印が必要
・検認手続きが必要(法務局保管制度を利用するときは不要)
・証人の選定は不要
・原則遺言者が保管(法務局に預けてもよい)
公正証書遺言
・2人以上の証人による立ち会いが必要
・公証人が遺言者の口授に基づいて作成
・検認手続きが不要
・公証役場が保管
秘密証書遺言
・2人以上の証人が必要
・日付、署名捺印が必要(自署で)
・本文についてはワープロでの作成も可能
・封筒に入れたら封が必要
・封筒に遺言書作成に用いた印鑑で押印
・公証役場が保管
不備をなくすためには、公正証書遺言を選んだほうが賢明です。
◯必要な記載事項
自筆証書遺言の場合、以下に示した項目を記載しなければなりません。
・本文
・作成日
・遺言者の情報(氏名、住所)
たとえば全部の財産を一人の相続人に渡す場合、「すべての財産を、◯◯に相続させる」と記載するのが一般的です。預貯金や不動産など、相続財産を特定しやすい状態にすると、より有効に成立しやすくなります。
ほかにも遺言書の役割として挙げられるのが、遺言執行者を指定することです。遺言執行者の詳しい制度については、後ほど紹介します。
◯文例
ここで、遺言書の文例を1つ紹介しましょう。以下の例は、被相続人の財産をすべて自身の妻に相続させるケースです。
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遺言書
遺言者 ○○○○は、次のとおり遺言する。
第1条 遺言者が所有するすべての財産を、妻△△(〇〇〇〇年〇月〇日生)に相続させる。
第2条 遺言者は、この遺言の執行者として次の者を指定する。
【遺言執行者の住所】
【遺言執行者の氏名】
〇〇〇〇年〇月〇日
(遺言者の住所)
(遺言者の氏名)印
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相続方法や遺言執行者の指定を示す際には、「第1条、第2条」という形で記載します。日付や遺言者自身の住所、署名捺印は終わりにまとめて記載するのが一般的です。相続財産の分配方法を決める重要な書類となるので、元気なうちに作成してください。
●遺言書によって全財産を一人に相続させる際の注意点
遺言書によって一人の相続人に全財産を渡そうとすると、トラブルが発生する恐れもあります。ここでは、とくに注意すべきポイントについて解説します。
◯遺留分の考慮
先程も紹介しましたが、全財産を一人に相続させるときは遺留分を考慮しなければなりません。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が取得できる遺産の最低限の額です。民法では、相続人に応じて次のように定められています。
相続人:各人の遺留分
配偶者のみ、子のみ:2分の1
直系尊属のみ:3分の1
兄弟姉妹のみ:遺留分なし
配偶者と子ども(1人):4分の1ずつ
配偶者と直系尊属:配偶者:3分の1、直系尊属:6分の1
たとえば妻と子(1人)が相続人であり、財産3,000万円をすべて妻に渡すという遺言を残しました。この場合、子は750万円の遺留分を請求できます。
◯遺言書の有効性
遺言書は、正しく作成しないと効力を発揮しません。とくに注意しなければならないのが、自筆証書遺言で作成したときです。
先述のとおり、自筆証書遺言の場合は自署での作成が必要になるため、無効になるリスクも高まります。形式や内容に不備があると疑われた場合、相続人から無効を主張されやすいため注意が必要です。
◯相続税の負担
多額の相続財産を一人に渡せば、その人は相続税の申告が必要になる可能性が高まります。一般的に相続税は、「3,000万円+(法定相続人の人数×600万円)」に達すると発生します。税率は、財産額に応じて10%から55%と幅広く設定されるのが特徴です。
仮に不動産を相続したとしても、相続税は現金で納めないといけません。つまり一人で財産を譲り受けた相続人は、経済的な負担も大きくなってしまいます。
さらに相続税が発生する場合、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内の申告が必要です。期限に遅れてしまうと、延滞税などが発生する恐れもあります。
◯相続人間のトラブル
遺言書で全財産を一人に相続させると、相続人間でトラブルが発生しやすくなります。遺留分もそうですが、遺言の内容に不満を感じる人は一定数出てくるでしょう。
不満が大きくなれば、全財産を引き継いだ相続人に対して民事訴訟を提起する可能性が高まります。ほかにも納得のいかない相続人が、遺言書を偽造・変造することも考えられます。遺言書の内容が、家族に亀裂を生む恐れがある点を考慮しなければなりません。
◯遺言執行者の指定
相続人同士のトラブルを防ぐためにも、遺言執行者を指定したほうが賢明です。遺言執行者は相続財産の管理や財産目録の作成など、遺言の内容を実現する役割を担います。指定しておかないと相続手続きが複雑になり、トラブルが発生しやすくなります。
遺言執行者の指定は、遺言書にその旨を記載するのが基本です。ほかにも家庭裁判所に申述し、指定してもらうといった方法もあります。
●まとめ
法律的には、遺言書で全財産を一人に相続させること自体は可能です。しかし遺留分や相続人同士のトラブル、相続税について考慮しなければなりません。
無論、遺言は自身の最期の意思を反映させる制度です。そのため自分の望む形で、自由に記載しても本来は問題ありません。
ただし遺言書の作成方法によっては、相続人同士が争うことで効力を失う恐れもあります。有効に成立させるためにも、弁護士に相談しつつ確実な方法で遺言を残すようにしてください。
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