遺言書の無効確認は難しい?無効になるケースと対処法を解説
遺言による意思表示は、被相続人の要望を叶えるうえで有効な手段の一つです。しかし、その内容に納得がいかず、効力の有無を争いたいと思う相続人も一定数いるでしょう。
遺言書の無効確認は、一般的に難しいとされています。効力を失わせるには、一定の要件を満たしていないといけないからです。
この記事では、遺言書が無効になるケースと具体的な対処法について紹介します。遠くないうちに相続が起こりうる人は、ぜひ記事を参考にしてください。
●遺言書が無効になるケース
まず遺言書が無効かどうかを考えるうえで、遺言者の判断能力の有無が争われます。さらに形式による不備と内容の不備も、重視されるポイントの一つです。遺言書が無効と判断される主な例を解説しましょう。
◯遺言能力がなかった場合
被相続人が遺言を残すには、遺言能力が必要とされています。重度な認知症や精神疾患を抱えており、判断能力を欠いている状態での遺言は基本的に効力を発揮しません。具体的には、成年被後見人(事理弁識能力を欠く人)に制限を課している状態です。
まず、事理弁識能力がない状態でした遺言は無効とされています。一時的に回復をした場合でも、医師2人以上の立ち会いがないと有効にはなりません。
15歳未満の者も、遺言能力がないと判断されます。つまり未成年者であっても、16歳以上に達していた場合の遺言は有効です。
◯法的要件を満たしていない場合
遺言には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。それぞれに法的要件があり、これらに反するものは効果を失います。遺言が無効となる要件について整理しましょう。
自筆証書遺言(自らが手書きですべて作成)
・本人が自署で全文を執筆していない
・ワープロや代筆で執筆されている
・日付と署名がある
公正証書遺言(公証人が代わりに作成)
・証人2人が欠格事由に該当する
・口授を欠いている
・錯誤、詐欺、強迫により書かせている
秘密証書遺言(遺言の中身を秘密にする)
・遺言者の署名がない
・公証人の手続きが不適切である
無効確認をする際には、これらの要件に該当していないかを弁護士と確認してください。
◯偽造・変造・強要された場合
偽造・変造・強要によって、作成されている遺言書も無効となります。偽造とは、遺言書を権限のない第三者が勝手に作成することです。変造は偽造と少し似ていますが、すでに作成された内容を改ざんする行為を指します。
明らかに文章に違和感があったり、内容を変更させられた形跡を見つけたりした場合は、偽造もしくは変造を疑ってみるとよいでしょう。
ほかにも遺言は、被相続人の意思に基づいて作成されなければなりません。誰かに脅されて作られたものも、無効となります。強制して書かせた人が相続人である場合、相続権が剥奪されることも押さえておきましょう。
◯撤回・訂正が適切にされていない場合
遺言書に撤回や訂正が生じたときは、正しく処置をしないといけません。
例えば文字を訂正するときは、必ず二重線で誤っている部分を削除する必要があります。その付近に書き直し、「この行〜;;;;文字削除、〜;;;;文字加入」と付け加えるのが一般的なルールです。やり方が誤っていたら、遺言自体が無効になる可能性もあります。
加えて遺言を撤回するときは、その旨を示す遺言書を残すのが原則です。ただメモを追加しただけでは、新しい遺言書とはみなされません。一方で遺言書が複数見つかり、これらの内容が矛盾していたら、日付の新しいほうが優先されます。
●遺言書の無効確認が難しいとされる理由
実際のところ、遺言書の無効確認が認められるのは難しいのが現状です。訴訟を提起しても、基本的に勝率は低いと考えてください。なぜ無効確認が認められにくいのかを、詳しくまとめましょう。
◯有効性の判断基準が厳格である
遺言書の無効確認が難しいといわれる理由の一つが、有効性の判断基準が厳格であるためです。遺言書の書き方にもルールはありますが、遺言者の意思を尊重する傾向が強く、ある程度は自由に記載できます。
必要事項が記載されており、本人の署名・捺印があったら真正に成立すると考えるのが基本です(民事訴訟法第228条4項)。そのため少々の不備を発見したとしても、遺言全体の効力を奪うのは難しいとされています。
◯遺言能力の有無を証明するのが困難
無効確認を訴えるうえで、遺言能力の有無を争点にする方法もあります。しかし遺言能力の有無を立証するのも、現実的に考えると困難です。
確かに事理弁識能力がない者は遺言を残せませんが、証明するには医師の診断記録や診療記録が必要です。こういった記録も、遺言書作成当時のものを揃えないといけません。そもそも医師の診断を受けていなければ、遺言能力の有無は基本的に証明できないでしょう。
◯偽造・強要の立証が難しい
偽造や強要があったと争うには、これらに関する明確な証拠を出す必要があります。偽造に関しては筆跡鑑定も有効ではあるものの、偽造や変造を見破れないケースも考えられます。本人の文字のクセをほぼ完ぺきに真似すれば、見逃してしまう恐れもあるためです。
さらに強要があったことを立証するには、第三者による証言も必要になるでしょう。このように多角的な視点から証拠を揃えなければならず、立証のハードルは高いといえます。
◯他の相続人との対立が深刻化しやすい
誰かが無効確認を主張すれば、相続人間での争いが激しくなり、調停や裁判に発展しやすくなります。無効確認に限らず、調停や訴訟は長引く傾向のある手続きです。相続手続きがなかなか前に進まず、痺れを切らした相続人と揉めることも考えられるでしょう。
また調停や裁判が長引けば、長期にわたって相続人らと戦わないといけません。精神的かつ経済的負担も大きくなり、心身ともに疲弊してしまいます。
そのため納得のいくジャッジが得られなかったとしても、結果を受け入れやすくなるのが無効確認で勝つのが難しい理由の一つです。
◯裁判で認められるケースが限られている
裁判では、無効確認を認めるケースが限られています。遺言書の内容によっては、特定の相続人が不利になるケースも少なからずあるでしょう。
しかし遺言は被相続人が自由に残せるものであり、民法もあらかじめ想定しています。遺留分の請求を相続人に認めているのは、遺言で不利となった者が最低限の財産を取得できるようにするためです。
したがって「不公平」や「納得できない」といった理由では、無効確認は認められません。法的要件を満たしていないことを、客観的な証拠に基づいて立証する必要があります。
●遺言書の無効確認は弁護士に相談すべき理由
遺言書の無効確認をしたいのであれば、まずは弁護士に相談するのをおすすめします。弁護士に依頼すれば、無効確認をすべきかの判断や証拠集めを徹底的にサポートしてくれるためです。メリットについて、もう少し詳しくみていきましょう。
◯遺言書の有効・無効を法的に判断できる
相続に強い弁護士であれば、遺言書の有効性を的確にジャッジしてくれます。遺言書を見る機会はほとんどないため、たいていの人は見方がわからないでしょう。
弁護士の場合、どの要件を満たしていないかを正確に分析できます。遺言書が無効だと主張する際にも、弁護士によって法的根拠を示したほうが認められる確率も高まります。
◯有効な証拠を集めるサポートができる
遺言書の無効が認められるには、明確な証拠が必要です。弁護士に相談すると、医療記録や筆跡鑑定といった証拠集めをサポートしてくれます。依頼者本人が必要な手続きを、弁護士が代理でできる点も強みです。
遺言書の作成方法に疑いがある場合でも、証拠がなければ調停や裁判で勝てる見込みは少なくなります。どういった証拠を揃えるべきかを、実績のある弁護士からアドバイスを受けましょう。
◯相続人間のトラブルを回避・軽減できる
弁護士への相談は、相続人同士のトラブルを抑える点でも効果的です。相続人間で話し合おうとすると、感情的になって対立がどんどん深まる恐れもあります。弁護士が間に入って交渉すれば、冷静に話し合いができ、解決に近づきやすくなります。
もちろん弁護士に交渉をさせても、トラブルを回避できないことはあるでしょう。しかしこうした場合においても、依頼をすることで調停や裁判の準備を進められます。したがってトラブルを回避・軽減するうえで、弁護士に相談して損はありません。
◯手続きの負担を軽減できる
調停や裁判を起こすとなれば、裁判所を通じてさまざまな手続きが求められます。遺言書の無効確認は特に専門性が高く、手続きもまた複雑です。素人だけで準備を進めようとすると、日常生活にも支障をきたしてしまうでしょう。
弁護士は、依頼者に代わって裁判手続ができます。書類作成や期限管理といった煩雑な作業をおこない、依頼者が調停・裁判で戦えるようにしてくれるのが強みです。
◯裁判所での手続きを適切に進められる
上述したとおり、遺言書の無効確認は勝率が高くありません。弁護士を味方につけなければ、調停や訴訟に発展したところで有利に進めるのは困難です。自分の主張が少しでも通るようにしたいのであれば、裁判での戦い方を知っている弁護士とともに争いましょう。
優秀な弁護士であれば、依頼者の権利を最大限に守ることを優先します。感情的には争わず、法的な主張や証拠提出を正しくおこなうでしょう。勝率を高めるには、法律事務所の公式サイトや資料を確認しつつ、実績豊富で信頼できると感じたところに依頼してください。
●まとめ
遺言書の無効確認は、現実的に考えると極めて勝つのが難しい争いとなるでしょう。その原因は、遺言が被相続人の意思を尊重していることと、偽造や変造などの立証の難しさにあります。
ただし、これまでの訴訟において無効主張が一切認められていないわけではありません。的確な証拠を提示できれば、勝利する確率をしっかりと高められます。
少しでも勝率を上げるためにも、相続トラブルに強い弁護士を味方につけることが大切です。遺言書に不信感を覚えたら、まずは最寄りの弁護士に相談してみてください。
藤沢市、鎌倉市、茅ケ崎市近郊で、遺産分割に関してお困りでしたら弁護士松永大希(藤沢かわせみ法律事務所)までご連絡下さい。
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