相続放棄は孫も必要?必要書類や手続きについて解説
自分の祖父母が亡くなった場合、一般的に相続の対象となるのは父や母です。しかし相続にはさまざまなケースがあり、自分も手続きが必要なのか不安に感じる人もいるでしょう。
この記事では、相続放棄に焦点を当てて手続きが必要かどうかについて解説します。相続放棄のルールだけではなく、具体的な必要書類や申請の手順も理解できる記事です。
祖父母の死亡に備え、あらかじめ準備を進めたい人はぜひ参考にしてください。
●孫の相続放棄が必要ないケース
相続放棄とは、被相続人の財産を一切引き継がないようにする手続きです。被相続人と仲が悪く遺産を引き継ぎたくない場合、借金しか財産がない場合などに使われます。
一般的に相続放棄は、被相続人の配偶者や子が手続きの対象者となります。ここでは孫が手続きする必要のないケースを具体的に解説しましょう。
◯父母がトラブルなく相続人となった
孫が相続放棄をする必要のないケースは、自身の父母が問題なく相続人となったときです。まず優先的に相続人となるのは配偶者と子であり、孫はその対象にはなりません。仮に孫が遺産を欲しくないと思っていても、原則として相続の手続きには全くもって影響がないといえます。
父母と同居しているケースであれば、仮に親が負債ばかりの遺産を相続したら生活が苦しくなるでしょう。しかし父母がその財産を相続した場合でも、孫には拒否する権利がありません。このように誰が相続の対象になるかをあらかじめ理解することが大切です。
◯父母が相続放棄をした
父母が被相続人の財産を相続放棄したときも、孫は手続きする必要がありません。なぜなら相続放棄をした場合、財産を取得する権利は後順位の相続人に移るからです。ここで相続人と権利を取得できる順番について紹介しましょう。
相続順位 被相続人から見た相続人(※) 法定相続分
第一順位 子(直系卑属) 配偶者(2分の1)、子(2分の1)
第二順位 父母(直系親族) 配偶者(3分の2)、父母(3分の1)
第三順位 兄弟姉妹 配偶者(4分の3)、兄弟姉妹(4分の1)
※配偶者は常に相続人となる立場を得る
仮に被相続人の子にあたる父母が相続すると、相続権は第二順位の直系親族に移ります。確かに孫が相続権を持つケースもありますが、相続放棄は該当しません。
なお兄弟姉妹も含めた親族全員が相続放棄をした場合、財産の権利者は相続財産清算人です。財産は売却されて国庫に帰属します。
◯特定遺贈を放棄する場合
人によっては、相続ではなく遺贈で財産を渡すケースもあります。遺贈とは、遺言によって特定の人へ財産を譲渡する行為です。基本的に被相続人の死亡によって効果が発動し、法定相続人以外が譲受人となる可能性があります。
遺贈は、大きく包括遺贈と特定遺贈に分けられます。それぞれの意味を表でまとめました。
遺贈の種類:意味
・包括遺贈:財産を特定せず割合のみで遺贈する
・特定遺贈:「不動産をAに、銀行預金をBに」などと財産を特定する
このうち包括遺贈の財産を放棄する場合、手続きの内容自体は相続放棄とほとんど同じです。一方で特定遺贈であれば、放棄するときに家庭裁判所での手続きは必要ありません。
無論、相続放棄と遺贈の放棄の意義はそれぞれ異なりますが、非常に似た性質を持つので併せて覚えておくとよいでしょう。
●孫の相続放棄が必要なケース
孫が相続放棄をしなければならないケースは、代襲相続が発生したときです。代襲相続とは、相続人が以下の条件に該当する際に相続人の子へ相続分が移る制度を指します。
・相続人(父母)が他界している
・相続人が相続権を失った
・相続人が廃除された
このとき相続分が移った者は、本来の相続人と同等の権利が得られます。仮に相続人が被相続人の子であった場合、代襲相続人は第一順位として第二順位や第三順位に該当する者よりも優先されるのが特徴です。
ここでは、代襲相続が認められる条件について詳しく解説しましょう。
◯父母がすでに他界している
まず代襲相続の対象になるケースとして、相続人が他界しているときが挙げられます。この場合の相続人は一般的に父母ですが、片方のみが亡くなっている状況でも代襲相続の対象となります。
代襲相続が認められるうえで、何か特別の手続きを経る必要はありません。条件さえ整っていれば、被相続人の財産を受け取れる権利が得られます。
もう一つ押さえてほしいポイントは、養子でも代襲相続人となる可能性があることです。ただし条件として、相続が発生した段階ですでに養子縁組がなされていなければなりません。
当該ケースでは孫が相続人となるため、財産を引き継ぎたくないときは相続放棄を済ませる必要があります。
◯父母が相続欠格に当てはまる
父母が相続欠格にあたる場合も、代襲相続が認められる条件のひとつです。相続欠格は「相続人の資格がない者」を指し、具体的には次の要件が必要とされています。
・相続人が故意に被相続人を死亡させた(未遂も含む)
・被相続人が殺害されたのを知っていたのに告発・告訴しなかった
・被相続人に詐欺・強迫のもと遺言書を作成させた(記載内容の変更も含む)
・詐欺・強迫によって遺言書の作成・変更を妨害した
・遺言書を偽造・変造・破棄・隠居した
相続欠格は被相続人の意思にかかわらず、これらの要件があると認められれば効力が発動します。また一度相続人の資格がないと判断されたら、原則として取り消しできません。ルールがやや複雑ですが、内容をしっかりと押さえておきましょう。
◯祖父母が父母を相続人から廃除した
ほかにも祖父母が相続人を廃除した場合、代襲相続が一般的に認められます。相続人の廃除は、相続欠格と混同しやすいため注意が必要です。こちらも条件に該当する例を紹介しましょう。
・相続人が被相続人を虐待した
・相続人が被相続人に日頃から暴言を吐いていた(侮辱)
・相続人に非行行為が見られた
廃除の相続欠格と異なるポイントは、被相続人からの申立てが必要な点です。したがって相続欠格とは違って、上記の要件に該当しても自動的に相続権が孫に移るわけではありません。
被相続人の意向によっては、遺言で代襲相続を認めなくする可能性もあります。一方で廃除は取り消しができるので、これらも含めて状況をしっかりと確認してください。
●相続放棄の手続きと期限
被相続人の死亡・相続欠格・廃除のいずれかが認められれば、孫にも相続放棄できる権利が与えられます。しかし相続放棄のルールは複雑であり、やるべきことも多くあります。
正しく申請できなかったら、被相続人の負債を引き継ぐ形になりかねません。生活上のリスクを負わないためにも、ここで紹介する内容は確実に理解してください。
◯期限
相続放棄で気を付けなければならないポイントは、期限が設定されていることです。具体的には「相続できることを知ったときから3カ月以内」と決められています。家庭裁判所で申請が受理されないと、正式に相続放棄を終わらせたとはいえません。
「相続できるのを知ったとき」は、自身が相続人であると認知できた日が該当します。ただし知識不足は考慮されないので、手続きする際には注意してください。
葬儀や財産調査を踏まえると、3カ月はすぐに過ぎ去ってしまいます。問題なく手続きを間に合わせるためにも、できる限り早い段階から準備を進めましょう。とはいえ自分一人で対応するのは簡単ではないので、プロの弁護士や司法書士の力を借りることをおすすめします。
◯必要書類
相続放棄を家庭裁判所へ申請するには、「相続放棄申述書」に加えて添付書類も提出しなければなりません。主に必要となる書類は次のとおりです。
・本人(申述人)の戸籍謄本
・被相続人の戸籍・除籍謄本(死亡日が記載されているもの)
・被相続人の住民票の除票
・被相続人の子(孫から見た親)の死亡日がわかる戸籍謄本
仮に代襲相続の要因が「父母の死亡」であったときは、その死亡日が記載された戸籍謄本の提出も必要です。
さらに費用としては、収入印紙代の800円と郵便切手代が発生します。郵便切手代の取り扱いは各家庭裁判所によって異なるので、管轄のところに確認してみるとよいでしょう。
◯孫が未成年者の場合
ケースによっては、代襲相続する孫が未成年である可能性も考えられます。相続放棄は、相続人の財産に関わる重要な手続きです。そのため対象者が未成年者(制限行為能力者)の場合、保護者の同意を得ずに手続きすることは認められません。
相続人が未成年者であれば、相続放棄は親権者が代わりに進めるのが基本です。しかし被相続人の孫が代襲相続人である場合、父母の双方とも亡くなっている可能性があります。こうした場面では家庭裁判所が未成年後見人を選任し、手続きするといった方法が採られます。
保護者が代わりに手続きするうえで、注意すべきポイントは利益相反関係に該当しないことです。利益相反とは、親権者や孫のどちらか一方しか利益が得られない状態を指します。親権者のみが財産を引き継ぎ、孫は相続放棄するといった行為は認められないので注意してください。
◯相続放棄が必要な範囲
被相続人が多額の借金を抱えていても、相続放棄が完了すれば孫は債務を引き継ぐ義務がなくなります。しかし放棄した借金は、そのまま消滅するわけではありません。負債は第二順位、第三順位の者が引き継ぐ形となり、各人が相続放棄を済ませる必要があります。
特に借金は、債権者の財産にも関わる問題です。相続放棄が正式に終わっていなければ、債権者は相続人に対して催告するでしょう。そのため第一順位の相続放棄が完了したら、なるべく第二順位や第三順位の者に連絡を入れてください。
●まとめ
相続放棄は主に被相続人の配偶者と子が関与する手続きであり、孫にあたる者は必ずしも対象になるわけではありません。しかし代襲相続の要件に該当すると、相続放棄できる権利が発生します。民法の規定は細かいですが、しっかりと内容を理解してください。
相続放棄の手続きは3カ月と短いうえ、膨大な書類を揃えないといけません。ゆっくりと準備を進めていると、期限が過ぎてしまう恐れもあります。弁護士または司法書士の力も頼りつつ、確実に手続きを終了できるように取り組みましょう。
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