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相続人が認知症の場合の遺産相続について|生前にできる対策を紹介

認知症の進行に伴い、日常生活のあらゆる面で困難が増えるのは明らかです。その中でも特に難解となりうるのが、遺産相続の問題です。


本人の意思が正しく伝わらない可能性、家族間での摩擦の火種になる可能性、法的手続きの困難さ、これらを如何に解決し、円滑な遺産相続を実現するかは誰もが頭を悩ませる問題でしょう。


本記事では、そんな相続人が認知症の場合に直面する遺産相続の問題を解決するための具体的な対策を、弁護士の視点から分かりやすくご紹介します。


相続人が認知症の場合でも、生前に適切な対策を行うことで、遺産相続をスムーズに進め、家族が安心して未来を見据えることが可能です。この機会にぜひご一読いただき、認知症のあるご家族を持つ方々の一助となる情報を手に入れてください。


相続人が認知症の場合の問題点

相続人が認知症の場合、以下4つが問題点としてあげられます。


・遺産分割協議ができない

・代筆は無効になる

・親族でも勝手に代理人にはなれない

・相続放棄できない


1つずつ解説していきます。


遺産分割協議ができない

認知症の進行に伴い、相続人が遺産分割協議を適切に行う能力を失ってしまうという問題が生じます。この結論は、認知症が人の判断力や意識の水準に深刻な影響を及ぼす病状であるという理由から導き出されます。具体的には、認知症は患者の記憶、思考、意志決定などの認知機能を低下させるため、遺産分割協議という複雑で重要な手続きを適切に行うことが困難になります。


この根拠として、遺産分割協議は全ての相続人が合意に至らなければならないという法的な要件があります。これは民法の規定に基づいており、一人でも意見が異なれば、遺産分割協議は成立しません。しかし、認知症の進行により適切な判断力を失った相続人がいる場合、その人が合意に参加し、自身の権利を保護するために必要な意思決定を行うことが困難になります。これにより、遺産分割協議が難航し、場合によっては適切な遺産分割が行えない状況が生じるのです。



代筆は無効になる


認知症の進行により判断力を失った相続人に代わり、他の相続人が勝手に遺産分割協議を進める代筆行為は無効となる、という事が法的に明確です。その理由は、遺産分割協議や遺言は各個人の自由意志に基づいて行われるべきものであり、認知症の相続人本人の意志が明確に示されていない限り、他者がその意思を代弁することは原則として認められないからです。


この根拠となるのは、民法における契約の成立要件です。契約は、当事者間の合意によって成立し、各当事者の自由意志が必要とされます。遺産分割協議も同様に、全ての相続人の合意が必要となる行為であり、そのためには各相続人の自由意志が求められます。認知症の進行により意思を適切に表現できない相続人がいる場合、その人に代わって他の相続人が勝手に代筆を行ったとしても、それは本人の自由意志に基づくものではないため、法的に無効となるのです。


したがって、認知症の相続人がいる場合の遺産分割協議では、個々の意志が適切に反映されるよう、法的な代理人や保佐人の設置など、適切な手続きを踏むことが重要となります。


親族でも勝手に代理人にはなれない

親族であっても、認知症の相続人について勝手に代理人となり、遺産分割協議を進めることは法的に許されません。その理由は、遺産分割協議は各相続人の自由意志に基づいて行われるべきものであり、認知症の相続人本人の意志が明確に示されていない限り、親族がその意思を代弁することは原則として認められないからです。


ここで重要な根拠となるのは、民法における代理行為の規定です。代理人が行う契約は、本人の意思表示によるものでなければならず、その本人の意思表示を代理人が伝えるという原則があります。これにより、認知症の進行により意思を適切に表現できない相続人がいる場合、その人に代わって親族が代理人となって遺産分割協議を行うことは法的に認められません。


そのため、認知症の相続人がいる場合には、適切な代理人を立てるための手続きが必要となります。


相続放棄できない


認知症が進行している相続人は、自身の財産に対する判断能力が不十分なため、相続放棄という選択を行うことは法的に認められません。相続放棄は相続人が自己の意思で選択し、その結果を理解できると判断される人物のみが行うことができる法的行為だからです。認知症が進行している人物が相続放棄をすると、その行為は無効とされ、法的な問題を引き起こす可能性があります。


この理由は、民法における意思表示の原則に基づいています。民法では、相続放棄は相続開始から3ヶ月以内に行うものであり、これは法定相続人が遺産を適切に評価し、相続するか放棄するかを決定するための期間とされています。この期間内に相続放棄の申述を行わなかった場合、相続が自動的に成立し、相続人は遺産とともに遺留債務を引き継ぐこととなります。認知症の進行により適切な意思決定ができない相続人が相続放棄を選択したとしても、その選択は相続人の自由意志に基づいたものとは認められず、法的に無効とされます。


遺産分割協議には成年後見制度を利用


認知症が進行している相続人にとって、成年後見制度の利用は遺産分割協議を円滑に進める有効な手段となるでしょう。遺産分割協議は、各相続人が自身の権利を適切に主張し、自己の利益を保護しながら行うべきプロセスです。しかし、認知症が進行している相続人は、自己の権利を適切に主張する能力を欠いているため、遺産分割協議が公正に行われる保証がありません。こうした状況下で成年後見制度を利用すると、認知症の相続人の権利が保護され、公正な遺産分割が可能になります。


この結論は、成年後見制度が認知症を患っている人々の利益を保護するために設けられた制度であることに由来します。この制度では、家庭裁判所によって指定された後見人が認知症の人々の法的行為を代理することになります。後見人は、法律によって義務付けられた職務を果たし、利益衝突を避けるための手段を講じるなど、本人の利益を最大限に保護することが求められます。


したがって、成年後見制度を利用することで、認知症の進行している相続人の遺産に関する権利が適切に保護されます。これにより、公正で透明な遺産分割協議が可能になり、相続人全員の利益が保護されると同時に、紛争や無効な遺産分割のリスクが軽減されます。


成年後見制度のメリット

成年後見制度のメリットを3つ紹介します。


・判断能力が低下している本人の利益を保護

・法的な手続きの代行

・親族関係の調整



判断能力が低下している本人の利益を保護


成年後見制度は、判断能力が低下している本人の利益を保護する重要な手段となります。これは成年後見制度が認知症や精神疾患により判断能力が低下した成人のために設けられ、その利益を保護するという原則的な目的から導かれる結論です。この制度の本質は、後見人が法的手続きを代行し、本人の利益を代表して行動することで、本人の法的権利と義務を適切に行使する能力を確保することにあります。


具体的な根拠としては、成年後見制度の運用実績が挙げられます。多くのケースにおいて、成年後見人は本人の財産を適切に管理し、重要な契約を結び、本人が適切な医療やケアを受けられるようにするなど、本人の利益を具体的に守る役割を果たしています。したがって、成年後見制度は判断能力が低下している本人の利益を保護する上で重要な役割を果たすと言えるのです。



法的な手続きの代行

成年後見制度は、本人に代わって法的な手続きを遂行するという大きなメリットを持っています。これは、判断能力の低下により、自己の意思を明確に表現したり、複雑な契約を理解したりすることが難しい場合に、後見人がその役割を果たすという制度の特性から生じます。後見人は本人に代わって法的手続きを遂行し、本人の法的権利と義務を守るという重要な役割を果たすため、この制度の存在は重要です。



親族関係の調整


成年後見制度は親族関係の調整にも大きなメリットを提供します。この制度により、親族間の利害関係や摩擦が生じた場合でも、後見人を通じて公正に本人の利益を保護することが可能となります。後見人は法的に定められた立場であるため、一方的な視点や偏見に囚われることなく、本人の利益を最優先に活動することが義務付けられています。


理由としては、親族間で利害関係が交錯し、対立が生じる可能性があるからです。特に、高齢者が認知症により判断能力を失った場合など、適切な判断を下すことが難しい状況では、親族間での意見の対立が生じやすくなります。そのような状況では、公平に本人の利益を考慮して行動できる後見人が介入することで、親族間の緊張を和らげ、公正な意思決定を行うことが可能となります。


成年後見制度のデメリット


成年後見制度のデメリットを3つ紹介します。


・後見人は親族が選ばれるわけではない

・後見人には報酬が発生する

・相続人の意図通りになるとは限らない


後見人は親族が選ばれるわけではない


後見人の選任に関する法律の規定があります。後見人の選任は裁判所が行うため、適切な判断をする能力が問われます。その際に、本人の利益を最優先に考える立場から最適な人選を行います。そのため、親族が適任であるとは限らず、中立性を保つことができる第三者が選ばれることもあります。


しかし、親族が後見人に選ばれない場合、親族が本人の生活や財産管理に関与する機会を失うという問題も生じます。親族は本人の生活状況や性格、価値観を深く理解していると言えますので、その視点が後見活動から除外されることは、本人の利益を最大限に保護する上でマイナスとなる可能性もあるのです。



後見人には報酬が発生する


成年後見制度の適用により、後見人に対する報酬支払いが発生するというデメリットがあります。後見人となる人は、認知症など判断能力が低下した本人のために法的手続きを行ったり、生活面での支援を行ったりするため、これらの業務に対する報酬が必要となるのです。


後見人になる人は、その任務を遂行するためには相応の時間やエネルギーを費やす必要があります。それらは後見人自身の他の生活領域に影響を与える可能性があります。そのため、その労力に対して適切な報酬を支払うことは公平性を保つ上で必要となります。


しかしながら、その報酬は本人の財産から支払われます。この報酬の発生は、本人の生活費や医療費など、他の必要な費用に影響を与える可能性があります。特に、高齢者の場合、限られた年金収入や貯蓄から後見人への報酬を捻出することは、経済的な負担となり得ます。また、財産全体が小さい場合や本人の生活費が高額な場合などには、この問題はより深刻になる可能性があります。



相続人の意図通りになるとは限らない

成年後見制度のデメリットの一つに、後見人の行動が必ずしも相続人の意図通りになるとは限らないという点があります。後見人は認知症等の理由で判断能力が低下している本人の利益を守るために存在しますが、その行動が全て相続人の意図に沿ったものであるとは言えません。


その理由は、後見人が本人の利益を最優先に考え、行動するという役割にあるからです。つまり、相続人が望む結果と後見人が本人の利益を最優先に行動する結果とが一致しない場合があるということです。例えば、相続人が望むような資産の運用や財産管理と、後見人が本人の利益のためと判断した資産の運用や財産管理が異なる場合、後見人は相続人の意向を無視して本人の利益を優先することがあります。


相続人が認知症の場合の生前対策

最後に相続人が認知症の場合の生前対策を4つ紹介します。


・遺言書の作成

・生前贈与

・家族信託の活用

・後見制度の活用


遺言書の作成


認知症の症状が進行する前の相続人が遺言書を作成することは、生前対策として有効な手段の一つです。遺言書は本人の死後の財産分配についての意向を明示することができるため、本人が存命中に遺言書を作成することで、その意思が法的に保証されます。


その理由として、認知症の進行により本人が自身の意思を適切に表現できなくなる前に、本人の意思を明確にすることができるからです。認知症の症状が進行して判断能力が低下してしまった後では、遺言書を作成することが難しくなります。それは、遺言者が遺言書を作成する時点で、遺言の内容を理解し、その意志を自由に表現する能力が必要だからです。これがないと、遺言書は無効とされてしまう可能性があります。


したがって、認知症の進行前に遺言書を作成することは、後の問題を未然に防ぐための重要な対策と言えます。


生前贈与


認知症の相続人が遺産を分割する上で遭遇する難しさを緩和するための生前対策の一つとして、生前贈与があります。生前贈与とは、文字通り本人が生きている間に財産を贈ることで、これにより相続対象の財産を減らし、相続手続きを簡素化することができます。


生前贈与が有効な理由は、認知症の症状が進行する前に本人が自身の意思を明確にし、自身の財産について意思決定できるからです。生前贈与を行うことで、本人が意思疎通が可能な状態で自身の財産を分配できます。さらに、生前贈与により相続対象となる財産の規模を縮小できるため、本人が亡くなった後の相続手続きが簡素化し、相続を巡るトラブルを減らすことが期待できます。


家族信託の活用

認知症の相続人が相続を適切に処理する上で遭遇する困難さを解消する生前対策の一つとして、家族信託の活用が考えられます。家族信託とは、本人が財産を信託という形で一定の目的を達成するために管理・利用することを第三者(信託受益者)に託す制度です。


家族信託が有効な理由は、本人の意思に基づき財産を管理・利用する枠組みを形成できるからです。家族信託を設定することで、信託に託された財産は信託受益者が管理し、本人が指定した目的や方法に従って財産を利用します。これにより、認知症が進行した場合でも本人の意思を尊重した財産管理が可能になります。


後見制度の活用

認知症の相続人が適切に相続手続きを行うための生前対策として、後見制度の活用が重要となります。後見制度とは、判断能力が不十分な者の法律上の利益を保護するための制度であり、後見人がその人の代わりに法律行為を行うか、監督する役割を担います。


その活用が必要となる理由は、認知症の進行により相続人が適切に意思表示を行うことが困難になった場合、後見人が代わりにその法律行為を行うことで、本人の法的利益を守ることが可能となるからです。後見人は本人の代理として、本人の利害に関わる各種手続きを適切に行います。


まとめ

認知症のある相続人が関与する遺産相続は一筋縄ではいかない問題が多いですが、適切な対策を講じることでその困難を軽減することが可能です。


本記事では、遺言書の作成や生前贈与、家族信託の活用、そして後見制度の利用といった具体的な対策を紹介しました。それぞれの対策にはメリットとデメリットがありますので、それらを理解した上で最適な方策を選択することが求められます。


また、税理士や弁護士などの専門家の意見を仰ぐことで、より適切な選択が可能になります。遺産相続は生前にしっかりと準備をすることで、相続人自身、そして遺族が未来を安心して歩むための大切なステップです。この記事がその一助となることを願っています。



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